「きょうだい」いるの?
おそらく、ほとんどの人は聞かれたことがあるはずです。
そして普通の人たちは、まるで天気の話でもするかのように、気軽に受け答えをしています。
しかし、障害や病気を抱えた兄弟姉妹を持つ「きょうだい児」は、その質問が出た瞬間に絶望的な気持ちになってしまいます。
「重度知的障害児(者)のお姉ちゃん」として生きてきた私も、そんな経験は数えきれないくらいしてきました
今回の記事では、きょうだい児が「きょうだいいるの?」と聞かれた時の気持ちや経験談についてまとめています。
同じ悩みを抱えているきょうだい児の方に「あるある~!」と共感いただけたらうれしいです。
きょうだい児は正直に「きょうだいは障害者です」と言えない
「きょうだいいるの?」と聞かれた瞬間、きょうだい児の頭の中にはいろいろな思いが駆け巡ります。
- もし正直に答えたらどうなるんだろう?
- 場の空気が悪くなるかも…
- 相手を困らせてしまうかもしれない
- 引かれちゃったらどうしよう…
相手が浅い付き合いの人だろうが親しい人だろうが、カミングアウトには相応の覚悟が必要です。
「実際に話をしてみたら、さらっと聞いてもらえるかも…」なんて、前向きな気持ちにはなれません。
おそらく、きょうだいの存在をとっさに隠してしまう方が多いのではないでしょうか?
きょうだいが「いる」と答える
余計なことは言わずに単純に「兄弟姉妹がいます」と答えた場合、その後どんどん質問が続いていきます。
何歳?仕事は?実家にいるの?結婚は?仲良いの?
ここできょうだいは障害者だと正直に話す勇気がなく、他に健常者の兄弟姉妹もいない場合は、適当に話を合わせるしかありません。
ですが、きょうだい児には「普通のきょうだいの関係」がわからないため、曖昧な返事をすることになります。
- 何歳? →○歳です(事実)
- 仕事は? →地元で働いています(通所施設で軽作業してるだけ)
- 実家にいるの? →そうですね(一応事実)
- 結婚は? →してませんね~(一応事実)
- 仲良いの? →まぁ……(仲良しというか何というか…)
そんな感じで無難な受け答えをしていると、嘘ではないけど嘘をついているような気持ちになって、心が苦しくなります。
相手が勘違いしていることがわかっているのに、意図的に隠していますからね
そして、ここから「普通の姉妹」の話を掘り下げられると、更に困ってしまいます。
- 妹さんと歳が近いと服の貸し借りをしたり、一緒に遊んだりするんでしょ?
- 姉妹って良いなぁ、私は弟(兄)しかいないから羨ましい!
- 妹さんかわいい?写真ある?見せて!
もうやめて!私のライフはゼロよ!!
そんな話を振られても具体的なエピソードはもちろん一つも出せないので、作り笑いが続く苦痛の時間ですね。
早く他の人の兄弟姉妹の話に移るか、この話題自体が終わることを祈るしかありません。
きょうだいは「いない」と答える
私は実際に試したことはないのですが、きょうだいの存在自体を消して、一人っ子として振る舞う方法もあります。
「いる」と答えたときと違って、その後に質問をされないという点では楽です。
ただ、学校・バイト先・職場など、同じコミュニティの中にいる間はずっとその嘘をつき続けなければなりません。
また、きょうだいとの関係にもよりますが、「いる」と答えて質問責めにされたときよりも、つらい気持ちになってしまう可能性もあります。
私の場合、妹の存在自体を消し去ることには、抵抗や罪悪感を感じます…
- すべて正直に話す
- 障害のことは伏せて、普通の兄弟姉妹を演じる
- きょうだいの存在を消す
どの選択肢もマイナスの想像しかできない中で、自分にとって一体どれが一番マシなのか…
同じコミュニティの中では、答えを統一しなければなりません。
でも「きょうだいいるの?」と聞かれるたびに、どの選択肢を選ぶかをつい考えてしまいます。
「きょうだいいるの?」は、なぜ雑談の鉄板ネタなのか?
なぜ他人は、こうも気軽に「きょうだいいるの?」と聞いてくるのか。
きょうだい児には疑問でしかありません。
でも、別に相手も興味があるから質問をしているわけじゃないと思うんです
「その人の好みや年齢に左右されない共通の話題で、会話が広がりやすいネタ」はそんなに多くないですからね。
また、ほとんどの人は兄弟姉妹の関係に深刻な問題も抱えていないため、万人向けの質問として成り立ってしまうわけです。
「きょうだいいるの?」に対処法はあるのか?
コミュニケーション能力がある人なら
- 自分から話題をどんどん提供していったり
- きょうだいの話になっても、すぐに次の話題に切り替えたり
ある程度は自分でコントロールすることが可能です。
でも私のように会話が苦手な人間は、そんな器用なことはできません
そんなときの唯一の対処法は、割り切ることですね。
職場の飲み会など、薄い付き合いの場では「きっと相手は、会話のネタが欲しいだけなんだ…」と思うことです。
- 薄い付き合いだし、相手も「重い話」を望んでないんだから、わざわざ言う必要なんてないわ!
- そもそも他の人だって、隠しごとの一つや二つはあるっしょ!
そう考えて、自分の罪悪感を少しでも軽くしていきましょう。
おそらく、きょうだい児が「きょうだいいるの?」という質問に、完全に恐怖を感じなくなることは難しいと思います。
私もずっと悩んでいるので偉そうなことは言えません。
でも、この記事によって、同じ悩みを持つ方の心が少しでも軽くなっていたらうれしいです。
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